海外特許は“取った後”もコストがかかる|INPIT外国出願補助金と実務のリアル― 権利化より「使えるか」が重要な理由 ―

日々の現場メモ

こんにちは、中小企業診断士のSacChiです。

高知の暮らし・観光・移住の”リアル”を、
企業支援の現場で得た視点とあわせて発信しています。

今回は、企業支援の中で調査した「INPIT外国出願補助金」について整理します。

💡 INPIT(インピット)とは
特許・商標など知的財産に関する相談支援や情報提供を行う、経済産業省系の公的支援機関です。


当初、
「海外特許の出願費用を補助してくれる制度があるんだな」
くらいの認識でした。

ですが、INPIT支援窓口へのヒアリングを通じて感じたのは、

海外特許は、
「どの国で、何のために、どう使うのか」まで考えて申請しないと、
むしろコストだけが積み上がる世界だということです。


今回は、外国出願補助金の制度概要だけではなく、

  • 海外特許出願の流れ
  • 外国出願で本当に考えるべきポイント
    • どんな国で権利取得を検討すべきか
    • どこまで費用がかかるのか
    • “取れば安心”ではない理由

について、実務メモとして整理します。

「海外展開を考えているけど、どこまで特許を取るべきかわからない」
という方の参考になれば幸いです。


海外特許出願の大まかな流れ

海外特許は、
「外国にも出願したい」と思ってすぐ各国へ出願するわけではありません。

まずは外国出願の2つのルートのうちどちらが適しているかを検討します。

① パリルート(出願国が少ない場合向け)

国内出願から12か月以内に、各国へ直接出願する方法。
PCTを利用しないため、比較的シンプルでスピード感があります。

② PCTルート(複数国出願向け)

国内出願から12か月以内にPCT国際出願を行い、その後30か月前後で各国へ国内移行する方法。
複数国への展開を検討する際によく利用されます。
今回は② PCTルートについてご説明します。


PCTルートの一般的な流れ

時期の目安内容ポイント
0か月日本で特許出願(基礎出願)まず国内で権利化の土台を作る
〜12か月以内PCT国際出願海外展開を見据えた国際出願
PCT出願から約4〜6か月後国際調査報告書受領新規性・進歩性などの評価が出る
PCT出願から約30か月以内各国への国内移行判断どの国へ出願するか決定
国内移行前後INPIT等の補助金活用出願費用・翻訳費用等を検討
国内移行後各国審査対応拒絶理由通知・中間処理等
権利化後維持・権利活用維持年金・模倣対策等が発生

💡 PCT出願とは

PCT(特許協力条約:Patent Cooperation Treaty)は、
1つの国際出願手続きで、
世界知的所有権機関(WIPO)加盟の複数国へ同時に出願した効果を得られる制度です。

2026年現在、
WIPOには157カ国が加盟しており、
米国、欧州、中国、韓国など主要国も含まれます。

出願書類は日本語または英語で作成可能で、
日本特許庁も受理官庁の1つです。

各国への移行を30〜31か月まで遅らせて、
事業の状況を見て出願国を選別できるメリットがあります。


戦略的な判断が必要

今回INPIT支援窓口の方と話していて感じたのは、
外国特許は「出願するかどうか」だけでなく、

  • どの国に出願するか
  • どの順番で出願するか
  • どこまで費用をかけるか

を、かなり戦略的に考える必要があるということでした。

特にPCT出願では、
各国への国内移行期限(約30か月)が存在するため、
「事業化が見えてから判断」では間に合わないケースもあります。


INPIT外国出願補助金とは?

外国出願補助金には、

  • 国の「INPIT枠」
  • 地方自治体枠

などがあり、高知県では併用可能です。

⚠️ ただし、併用可否は自治体ごとに異なるため、
必ず各自治体の公募要領を確認する必要があります。


📅 INPIT枠の公募スケジュール

INPIT枠は年4回(12月・3月・6月・9月)公募されるため、
タイミングを分けながら段階的に外国出願を検討できる点も特徴です。

令和8年度スケジュール
  • 第1回: R7/12/1〜12/22
  • 第2回: R8/3/2〜3/23
  • 第3回: R8/6/8〜6/29
  • 第4回: R8/9/7〜9/28

⚠️ 申請時の注意点

補助金申請時には、

  • 国際調査報告書
  • 予備調査結果
  • 特許調査結果

などが必要となるケースもあり、
「すぐ申請できる」とは限らない点には注意が必要です。


海外特許は「取ること」より「使えるか」が重要

INPIT支援窓口で印象的だったのが、

海外特許は、市場があるかだけではなく、
実際に権利を機能させる可能性まで考える必要がある

という話でした。


権利行使の実態は国によって差がある

国によっては、特許制度自体は存在していても、

  • 出願件数
  • 権利行使実務
  • 裁判実績
  • 行政取締

などが欧米ほど活発ではないケースもあり、
権利化しても、実際にどこまで活用・権利行使できるかは、国によって差があるとのことでした。


それでも外国特許を取得する意味が大きいケース

一方で、以下のようなケースでは、
コストを踏まえても外国特許取得の意義が大きいとのことでした。

将来的にその国で製造を行う可能性がある
日本商社経由ではなく現地販売を想定している
現地販売代理店を利用する予定がある
模倣リスクが高い


つまり、
「市場があるから出願する」ではなく、
“その国でどう事業展開するか”まで含めて考える必要がある
ということです。

そして、PCT出願から約30か月以内に国内移行を判断しなければならず、
事業計画が完全に固まる前の段階で、一定の投資判断を求められる難しさもあります。

特許戦略というより、
「将来どの国で事業を伸ばしたいのか」という
経営判断そのものに近い話だと感じました。


実は「取った後」もコストがかかる

外国特許は、出願費用だけで終わりではありません。

📊 出願・権利化までに必要な費用

費用項目内容
公的手数料出願料・審査請求料など。各国特許庁に支払う手数料。国によって大きく異なる。
翻訳費用外国出願で最も変動が大きい費用。
現地代理人費用各国の弁理士・特許事務所に支払う費用。
日本側代理人費用日本の弁理士費用。
PCT出願費用PCTルートの場合に発生。
中間対応費用拒絶理由通知対応など、各国審査で追加対応が発生した場合の費用。

💰 権利維持・活用に必要な費用

費用項目内容
維持年金国ごとに毎年または数年ごとに支払う。
現地代理人の年金納付代行費用国によって必要となる場合がある。
侵害調査費用他社特許との抵触や侵害状況を確認するための調査費用。
権利行使費用警告・訴訟・行政対応などを行う際に発生。

⚠️ 費用規模の目安

国や案件内容によっては、
出願から維持まで含め数百万円規模となるケースもあるとのことでした。

また、実際に侵害対応を行う場合、海外では数千万円規模になるケースも珍しくないそうです。

そのため、
「海外展開をにらんでいるからとりあえず出願する」ではなく、
「将来、本当にその権利を使う可能性があるのか」まで含めた判断が重要になります。


まとめ|外国特許は”知財”というより”事業戦略”

今回ヒアリングして感じたのは、
外国特許は”知財”というよりも、
“事業戦略”寄りの話だということです。


📌 外国特許で考えるべきこと

制度自体は非常に有効でも、
「出せば安心」というものではありません。

  • どの国で、
  • どう事業展開し、
  • どこで利益を確保し、
  • どこで模倣リスクを防ぐのか。

戦略があって初めて、
外国特許や補助金が活きてくるのだと感じました。

この記事が、これから海外展開や外国出願を考える企業の参考になれば幸いです。

もし外国出願を検討中の方は、
各都道府県に設置されているINPIT支援窓口でのご相談をおすすめします!

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