こんにちは、中小企業診断士のSacChiです。
高知の暮らし・観光・移住の”リアル”を、
企業支援の現場で得た視点とあわせて発信しています。
「付加価値額を前年比3%上げる」
企業支援の仕事をしていると、こうした目標を目にすることがあります。
補助金でも、
「付加価値額を年平均○%以上増加させる」
「従業員一人当たりの給与支給額を○%以上増加させる」
といった要件が設定されることがあります。
では、実際に付加価値額を3%上げるには、企業は何をすればいいのでしょうか?
売上を3%増やせばいい?
設備を買えばいい?
賃上げすればいい?
今回、企業の付加価値額について改めて整理する機会があり、
「計算式は分かる。でも経営として何をすればいいの?」
という部分を考えてみました。
今回は、
✅ 付加価値額とは何か
✅「付加価値額3%増」とは実際いくらなのか
✅ 付加価値額を高める3つの考え方
✅ 付加価値額と賃上げの関係
✅ 補助金申請で「○%増」を見るときのポイント
について、企業支援の現場で感じていることも交えながら整理します。
先に結論|付加価値額3%増は「売上3%増」ではない
最初に結論です。
付加価値額を3%増やすからといって、売上を3%増やせばよいわけではありません。
付加価値額とは、企業が商品やサービスを提供する過程で、新たに生み出した価値を表す指標です。
補助金などでは、次の計算式が使われることがあります。
付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
つまり、付加価値額を高めるためには、
① 稼ぐ力を高める(営業利益)
② 生産性・収益力向上につながる設備投資を行う(減価償却費)
③ 生み出した価値を人材へ還元し、成長に必要な人材へ投資する(人件費)
という3つの視点で考えることができます。
大切なのは、人件費や減価償却費を単純に増やすことではありません。
企業全体の稼ぐ力を高め、その成果を次の設備や人材へ投資する。
そんな循環をつくることが、持続的な付加価値向上につながります。
そもそも付加価値額とは?
付加価値とは、簡単にいえば、企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値です。
例えば、材料を仕入れて製品をつくる製造業を考えてみます。
仕入れた材料をそのまま売るのではなく、従業員の技術やノウハウ、機械設備などを使って加工し、より価値の高い製品として販売します。
このように、企業自身が新たに生み出した価値を捉えるための指標の一つが「付加価値額」です。
それぞれを簡単に整理すると、
| 項目 | 内容 |
| 営業利益 | 本業で生み出した利益 |
| 人件費 | 役員報酬、従業員への給与・賞与、法定福利費など |
| 減価償却費 | 設備等への投資を一定期間に分けて費用化したもの |
となります。
つまり、付加価値額は単純に「会社にいくら利益が残ったか」だけを見る指標ではありません。
「付加価値額3%増」って、実際いくら?
「前年比3%増」と言われても、少しイメージしにくいですよね。
そこで、実際の金額に置き換えてみます。
例えば、ある企業の前年の付加価値額が、
- 営業利益:500万円
- 人件費:3,500万円
- 減価償却費:1,000万円
だったとします。
付加価値額は、
500万円+3,500万円+1,000万円=5,000万円
です。
これを前年比3%増やすと、
5,000万円 × 1.03 = 5,150万円
つまり、この会社の場合はあと150万円の付加価値を生み出す必要があることになります。
ここまで金額にすると、少し経営の話として見えてきます。
では、この150万円をどうやって生み出すのか?
ここからが重要です。
付加価値額を高める3つの考え方
① 稼ぐ力を高める(営業利益)
まず考えたいのが、本業の「稼ぐ力」です。
営業利益は、
売上高-売上原価-販売費及び一般管理費
で計算されます。
そのため、営業利益を高めるには、大きく「売上を増やす」「原価・経費を適正化する」という方法があります。
例えば、
売上を増やす
- 販売数量を増やす
- 販売単価を見直す
- 高付加価値な新商品・サービスを開発する
- 新しい市場へ進出する
原価(売上原価、製造原価)・経費(一般管理費、販売費)を適正化する
- 生産性を向上させる
- 歩留まりを改善する
- 不良率を低減する
- 仕入価格や使用材料を見直す
- 業務を効率化する
などです。
例えば、先ほどの「あと150万円」を考える場合でも、
「売上をとにかく増やそう」
ではなく、
販売単価を見直せないか?
不良やロスを減らせないか?
同じ人数でもっと生産できないか?
と分解して考えることができます。
付加価値額向上を考えるうえで、基本となるのは本業の稼ぐ力を高めることだと思っています。
② 生産性・収益力向上につながる設備投資を行う(減価償却費)
次に設備投資です。
機械設備やシステムなどへ投資し、固定資産として計上した場合には、一定期間にわたって減価償却費が計上されます。
例えば、
- NC工作機械
- ロボット・自動化設備
- 生産設備
- DX・ITシステム
- 3Dプリンタ
などへの投資です。
ここで注意したいのが、
「減価償却費を増やせば付加価値額も増えるから、設備を買えばいい」
という話ではないことです。
例えば、新しい設備を導入して、
作業時間が短縮する
↓
同じ人数で生産できる数量が増える
↓
売上・利益が増える
あるいは、
自動化する
↓
人が行っていた単純作業が減る
↓
より付加価値の高い仕事へ人員を振り向ける
といった変化につながってこそ、設備投資の意味があります。
つまり、
設備投資 → 省力化・生産性向上 → 収益力向上
という流れです。
補助金を活用した設備投資でも、
「補助対象だから設備を買う」のではなく、「自社のどの経営課題を解決するための投資なのか」から考えることが重要です。
③ 生み出した価値を人材へ還元し、成長に必要な人材へ投資する(人件費)
付加価値額には、人件費も含まれます。
例えば、
賃上げ
- ベースアップ
- 賞与の増額
- 各種手当の増額
人材確保
- 事業拡大に必要な人材の採用
- 専門人材の採用
などです。
ただし、ここでも単に人件費を増やせばよいわけではありません。
人件費だけが増えて、それ以上の価値を生み出せなければ、企業の利益は圧迫されます。
目指したいのは、
企業が稼ぐ力を高める
↓
生み出す付加価値が増える
↓
従業員への賃上げ・人材投資につなげる
↓
人材確保・定着、生産性向上につなげる
という好循環です。
付加価値額を算定するときの注意点
「設備を買う」「人件費を増やす」だけでは付加価値額は増えない?
ここは、付加価値額の計算式を見ると少し疑問に感じるところです。
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
なら、
「給料を上げれば人件費が増える」
「設備を買えば減価償却費が増える」
ので、付加価値額も増えるように見えます。
しかし、例えば人件費が100万円増えた結果、営業利益が100万円減った場合、
営業利益▲100万円+人件費+100万円=付加価値額への影響は0円
です。
設備投資についても同じように、減価償却費が増える一方で営業利益が減れば、必ずしも付加価値額が増えるとは限りません。
だからこそ、
「何にお金を使うか」ではなく、「その投資によってどれだけ新しい価値を生み出せるか」
が重要になります。
「付加価値額+3%」と「給与+3%」は同じではない
もう一つ注意したいこととして、付加価値額の増加と給与の増加は別物ということです。
付加価値額が3%増えたからといって、自動的に従業員一人当たりの給与が3%増えるわけではありません。
企業が生み出した付加価値は、
- 利益として企業に残す
- 従業員の給与として分配する
- 設備投資などに活用する
など、企業の経営判断によって配分されます。
一方、十分な付加価値を生み出せていない状態で賃上げだけを先行させれば、企業の利益を圧迫する可能性があります。
そのため、持続的な賃上げを考えるなら、
生産性向上 → 付加価値額増加 → 賃上げ
という「賃上げの原資」をつくることが重要です。
補助金申請の際に求められること
なぜ補助金では「付加価値額」と「賃上げ」が求められる?
近年の中小企業向け補助金では、設備を導入することだけではなく、その投資によって生産性を高め、付加価値や賃金の向上につなげることが求められる制度があります。
公募要領を読むと、
- 付加価値額
- 給与支給総額
- 従業員一人当たり給与支給額
- 事業場内最低賃金
などの増加が要件になっている場合があります。
なぜ設備投資の補助金なのに、賃上げまで求められるのでしょうか。
考え方としては、
設備投資
↓
省力化・生産性向上
↓
企業が生み出す付加価値の増加
↓
その成果を従業員の賃金へ還元
という流れです。
補助金は設備を安く購入するための制度ではなく、投資をきっかけとして企業の生産性を高め、企業と従業員双方の所得向上につなげることが求められているわけです。
補助金申請前に「○%増」を金額に直してみよう
補助金の公募要領に、
「付加価値額を年平均3%以上増加」
と書かれていると、
事業計画の数字をとりあえず毎年3%ずつ増やしてしまいたくなるかもしれません。
でも、その前に一度、「自社の場合、3%はいくらなのか?」を計算してみることをおすすめします。
先ほどの会社なら、
付加価値額5,000万円 × 3% = 150万円
です。
では、この150万円を、
何を売って生み出すのか?
どの商品の単価を上げるのか?
どの工程を改善するのか?
設備導入でどれくらい生産性を上げるのか?
まで考えてみます。
さらに給与についても同じです。
「従業員一人当たり給与支給額○%増」
という要件があれば、
自社では一人当たり何円の増額になるのか?
会社全体では年間いくら必要なのか?
その原資をどこから生み出すのか?
まで考える必要があります。
「○%増」という数字を、自社の「円」に置き換える。
これだけでも、補助金の事業計画がぐっと現実的になると思います。
そして、その数字が、実現可能な数字なのかどうかを精査してください。
補助金によっては、一定の要件が未達の場合、補助金の一部等の返還が求められることもあります。申請前に最新の公募要領を確認しましょう。
補助金は「採択されたら終わり」ではない
補助金を検討するときは、どうしても、
「補助率はいくら?」
「上限はいくら?」
「何が対象経費?」
というところに目が向きます。
もちろん、それも重要です。
ただ、付加価値額や給与支給額について要件が設定されている補助金では、採択・交付決定後の事業計画まで考えて申請する必要があります。
設備を導入したあと、
本当に生産性は上がるのか?
売上や利益はどれくらい増えるのか?
その結果として賃上げを続けられるのか?
まで考えておかなければなりません。
企業支援をしていると、補助金を「設備を買うためのお金」として考えてしまいがちですが、本来は、
経営課題 → 改善策 → 投資 → 生産性向上 → 付加価値向上 → 賃上げ
という経営改善の流れの中に、補助金があるのだと思います。
まとめ|「3%増」を補助金の数字で終わらせない
付加価値額とは、企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値を表す指標です。
そして付加価値額を高めるには、
① 稼ぐ力を高める
② 生産性・収益力向上につながる設備投資を行う
③ 生み出した価値を人材へ還元し、成長に必要な人材へ投資する
という3つの視点があります。
補助金などで、
「付加価値額+3%」
という数字を見たとき、それを単なる申請要件として捉えるのではなく、
「自社の場合はいくら増やす必要があり、その価値を何によって生み出すのか?」
まで考えてみる。
そして、
「給与を○%上げるには、どれだけの付加価値を生み出す必要があるのか?」
まで考える。
そうすると、「付加価値額○%増」「給与○%増」という数字が、補助金申請のためだけの目標ではなく、自社の経営を考えるための数字に変わってくるのではないでしょうか。
補助金はあくまで、その経営改善を後押しする手段の一つです。
補助金を使うために数字をつくるのではなく、会社を成長させる計画の結果として、付加価値額と賃金が伸びる。
そんな事業計画になっているか、一度確認してみてください。
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